倫理学の歴史と現代的課題:生命倫理から環境・企業倫理までを読み解く

倫理学の歴史的展開と現代的課題

倫理学は、人間の行動や価値判断の基準を探求する学問として古代から発展してきました。本稿では、その歴史的展開を簡潔に振り返りつつ、現在の社会が直面する生命倫理、環境倫理、企業倫理といった重要なテーマに焦点をあて、それぞれの現状と問題点を検討します。


倫理学の歴史的概観

倫理学の起源は古代ギリシア・ローマにさかのぼります。ホメロスやヘシオドスの時代における宗教的・神話的価値観から、ソクラテス、プラトン、アリストテレスらによって理性に基づく倫理思想へと転換が起こりました。彼らは「善き生き方」や「徳」の探究を通じて倫理学の基礎を築きました。

中世にはキリスト教的倫理が支配的となり、近代に入るとカントや功利主義など、個人の自律や幸福最大化を掲げる新たな倫理理論が登場します。現代倫理学はこれらの伝統を踏まえつつ、多様な社会問題への応用を展開しています。


現代における主要な倫理的課題

生命倫理学

生命倫理は、生命の尊厳と人権の視点から医療や生物技術の発展に伴う問題を扱います。生命の始まり(例えば人工授精、胚の問題)、生命の選別(遺伝子診断や中絶)、そして生命の終わり(安楽死や延命治療)といった課題を通じて、医療現場での倫理的判断が問われています。

環境倫理学

地球規模での環境問題が深刻化するなか、A・レオポルドの土地倫理やR・カーソンの環境活動を出発点に、持続可能な発展や世代間倫理、動物の権利、自然との共生など、多面的に環境問題を捉え直す倫理学が発展しています。人口増加や南北問題もこの文脈で重要なテーマです。

経営倫理学(ビジネス・エシックス)

企業活動の社会的責任が強調される現代、経営倫理は単なる法令遵守を超え、事例研究を通じて倫理的意思決定の枠組みを検討します。消費者や従業員、地域社会における倫理的配慮が求められています。

正義論

正義とは何かという根源的問題を扱う倫理学の中核テーマ。制度的正義と個人の善の関係、共同体主義的視点からの批判と擁護など、多様な視座から正義の再構築が試みられています。


まとめ

倫理学は、古代から続く人間の価値探究の歴史に根ざしつつ、現代の社会的・技術的変化に応じて動的に展開しています。地球環境問題や生命倫理の諸課題、企業活動の倫理的側面など、私たち一人ひとりが直面する問題に対し、深い洞察と行動指針を提供する学問としていっそうの重要性を持ちます。

未来を支える倫理の知恵を学ぶことで、持続可能で公正な社会の実現に寄与しましょう。


道徳哲学

まえがき この書籍は、倫理学の歴史的展開を簡明に概観し、現代における倫理的諸問題の現状と問題点を分析検討することを目的としています。 第I部 現代の倫理学 第一章 生命倫理学

  1. 生命倫理学の成立——人権運動としての生命倫理 生命倫理学は、人権運動の結果として成立した概念であり、個人の生存権と自律性の尊重を主眼に置く。
  2. 生命の始まりに関する問題 人工授精や体外受精によって誕生する子供の存在とその父母の責任について論じる。
  3. 生命の選別に繋がる問題 不完全生殖障害などの生殖能力障害者をはじめとする医療行為により生じる選択問題を論じる。
  4. 生命の終わりに関する問題 医療行為による命の切っ掛け問題やヒステロイルナバンドの問題を論じる。
  5. 生命の質とパーソン論 人間の価値の問題を論じる。
  6. 医療の倫理 医療倫理の基準を論じる。
  7. 今後の展望の試み——欲望の行方 性的欲求の際限のない自由を考える。 第二章 環境倫理学
  8. 二人の先達——A・レオポルドとR・カーソン 環境保護運動の二大先駆者を紹介する。
  9. 土地倫理 土地の所有権と経済活動の倫理を論じる。
  10. 世代間倫理と持続的発展 後世に対する負担と責任の問題を論じる。
  11. 動物の解放 動物と人間の関係について論じる。
  12. 自然の権利 自然が持つ権利について論じる。
  13. 環境と共生 人間と環境の共存について論じる。
  14. 人口問題と南北問題 人間の増加と資源の問題を論じる。 第三章 経営倫理学(ビジネス・エシックス)
  15. 経営倫理概説 経営者が考えていなければならない倫理的問題を論じる。
  16. 用語の紹介とその背景 道徳的利益と経済的利益について論じる。
  17. 事例研究 企業が倫理問題に直面したときの対応について論じる。 第四章 正義論
  18. 正義論という問題 正義の概念について論じる。
  19. 正義論への視点 現代の正義論は何なのかを論じる。
  20. 正義をいかにして構想するか 正義の構想について論じる。
  21. 制度における正義、個人における善と正義 制度の正義と個人の善と正義について論じる。
  22. 共同体主義による「正義論」批判とその主張 共同体主義が正義論を批判するのにはどのような理由があるのかを論じる。 第II部 倫理学史 第五章 古代ギリシア・ローマの倫理
  23. 概観 古代ギリシア・ローマの倫理を概観する。
  24. ホメロス ホメロスの作品について論じる。
  25. ヘシオドスと宗教 ヘシオドスの作品について論じる。